予防歯科は将来の医療費を軽減できる?

はじめに

歯の健康を保つための取り組みとして注目が集まっている予防歯科。口腔内に痛みや異変などを感じていないのに病院に行くのは費用や時間がもったいないと感じる人も多く、日本で予防歯科に取り組んでいる人はまだ少ないようですが、予防歯科に取り組むことは将来の歯科治療費の軽減につながります。
今回は予防歯科への取り組みと将来の歯科治療費の関係について紹介します。

予防歯科とは

予防歯科とは、虫歯や歯周病など口腔内の病気が進行してから治療を行う従来の考え方とは異なり、口腔内の疾患を未然に防止することに重点を置いた診療のことです。
スウェーデンを中心とする北欧から広まったものですが、現在、欧米諸国では6割以上の人が歯の定期的なメンテナンスを行っており、“予防歯科は当たり前のこと”という認識になっています。

日本での予防歯科の認知度はまだ低く、取り組んでいる人も少ないのが現状です。
予防歯科の先進国であるスウェーデンでは80代の平均残存歯数は20本を超えているのに対し、80代の日本人の平均残存歯数は5本という調査結果からも分かるように、予防歯科への取り組みは歯の健康に非常に大きく影響しています。

近年「歯の健康を守るためには予防が大事」、「歯の健康は全身の健康に大きく影響する」という考えが日本でも少しずつ広まってきており、予防歯科への取り組みを始めた歯科も増えているようです。

予防歯科にかかる費用

現在の日本の医療制度では、病気の治療目的の診療を保険診療とし、それ以外は保険外、つまり自由診療になり、その費用は全額自己負担です。予防歯科の治療内容としては
①口腔内の状況確認と日常的メンテナンスの指導
➁バイオフィルムや歯垢・歯石の除去
③歯の表面へフッ素塗布
がありますが、その費用や内容はそれぞれの歯科医院で自由に設定できるので、口腔内検査や歯石除去を単独メニューとして料金設定している歯科医院もあれば、一連の予防歯科を一つのコースとして料金設定している歯科医院もあるなど、様々です。

おおよその費用相場の目安としては、単独メニューで5,000~7,000円、一連のコースメニューの場合は20,000~50,000円になります。予防歯科の費用は決して安いものではなく、その点が現在の日本で予防歯科に取り組んでいる人がまだ多くない理由の一つでもあるようです。

通常の歯科治療にかかる費用

日本の医療制度では、虫歯や歯周病など歯の病気の治療は基本的に保険診療です。かかる費用は症状の進行度によって変わりますが、1回あたり数千円で収まります。一方、症状が重篤の場合や治療に使用する材料にこだわり、自由診療の物を選択した場合は数万円から数十万円かかる場合もあるので注意が必要です。

虫歯治療の場合の費用目安を紹介しましょう。

症状 治療内容 治療費用の目安
歯の表面のエナメル質が溶けた状態の軽度の虫歯(軽度) 患部を削り、詰め物をする 約1,000~1,500円
(保険適用)
神経近くまで達している虫歯(中度) 患部を削り、状態により神経をとる
歯型をとって詰め物をする処置が必要な場合もある
約2,000~4,000円
(保険適用)
歯型をとって詰め物をした場合
銀歯 約2,000円
(保険適用)
セラミック 35,000~70,000円
(自由診療)
虫歯が神経まで達し、激しい痛みを伴う虫歯(重度) 神経を抜き、歯の根元部分を整えた後、土台を造って被せ物をする 10,000円
(保険適用)
被せ物の材料により
50,000円~300,000円
(自由診療)

歯周病の治療は症状によって通院回数が異なります。1回の治療費は保険適用で1,500〜2,000円程度ですが、初期の段階で5回程度、中期の段階で10回程度の通院が必要なため、かかる費用は初期の症状で7,000~10,000円前後、中期の症状で15,000~20,000円前後です。

歯周病が重症になってしまった場合は完治が難しく、1ヵ月に1回の通院と数年単位での治療が必要になることが多く、費用もそれだけ嵩みます。重度の歯周病の場合、外科手術や再生医療が必要となり、その費用は数十万〜100万円以上もかかることもあります。

さらに虫歯や歯周病によって歯を抜かなければならなくなった場合は、かみ合わせや見た目に問題が生じないようブリッジや部分入れ歯、インプラント手術等の治療を勧められることがありますが、抜歯後の治療として一番人気があるインプラント手術を選択した場合、インプラント手術は自由診療にあたるため、1本あたりの費用相場は40万~50万円です。

料金表 インプラント

将来の歯科治療費を軽減するためには

虫歯や歯周病など口腔内の病気は自覚症状がないままに進行している場合が多く、痛みや異変を感じた時には重症化しているというようなケースも少なくありません。今、歯が健康だからと言って、将来もずっと虫歯にも歯周病にも悩まず老後を迎えられるという保証はないのです。

口腔内の病気が重症化した場合は数万円から100万円単位での治療費が発生します。この将来的なリスクを軽減するためには、予防歯科が有効です。

定期的な検診、歯垢や歯石の除去、フッ素の塗布によって、虫歯や歯周病を疾患するリスクは大幅に下がります。例え虫歯や歯周病にかかったとしても、歯科衛生士などに定期的に口腔内をチェックしてもらうことによって、重症化することは避けられるでしょう。

予防歯科の先進国であるスウェーデンでは80歳代の平均残存歯数は20本を超えています。つまりスウェーデンの人は抜歯が必要になるほど虫歯や歯周病を重症化させず、老後まで健康な歯を維持しているということです。口腔内の病気にかかりにくく、かかっても軽症で完治しているスウェーデンの人の歯科治療費と80歳代の平均残存歯数が5本の日本人の歯科治療費を比べると、日本人の治療費は数倍どころか数十倍になるかもしれません。

予防歯科への取り組みは将来の歯科治療費を軽減するための一番効果的な方法と言えるでしょう。

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予防歯科は歯科以外の将来の医療費軽減にも効果的

虫歯が重症化すると歯のかみ合わせが悪くなり、治療せずに放置しておくとめまい、首や肩のコリ、疲労感、食欲低下などの原因となる顎関節症を発症する可能性があります。
また口の中に入れた食べ物がきちんと咀嚼できなければ、胃や腸に負担がかかり、健康に影響及ぼすかもしれません。

また、歯周病は歯ぐきが炎症することによって、インシュリンの働きの低下に伴う糖尿病や血管の病気、誤嚥性肺炎など、全身の病気を引き起こす場合もあるため、早急な治療が必要です。

私たちはほとんどの栄養を口から摂取するため、虫歯や歯周病など口腔内の病気は、歯の機能に影響を及ぼすだけでなく、全身の健康にも大きく関係します。口腔内の疾患を未然に防ぐことは、歯以外の全身の病気予防にもつながるため、予防歯科への取り組みは、歯以外の将来の治療費を軽減するためにも非常に大きな影響を与えると言えるでしょう。

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まとめ

予防歯科と将来の歯科治療費の関係について紹介しました。症状が出ていないのに歯科に通院し、予防歯科に費用や時間をかけることはもったいないと感じるかもしれません。

しかし現時点で予防歯科に取り組むことは、将来の歯科治療費の軽減につながるはずです。予防歯科の先進国であるスウェーデンの人々の歯の残存率がそれを証明しています。

歯が残存しているということは、抜歯やインプラント治療などを必要とせず、歯の治療に費用をかけずに済むということです。
年齢を重ねるごとに医療費は増加傾向にありますが、虫歯や歯周病にかかるとさらに数万円から多い場合は100万円以上の治療費がかかってしまいます。将来の歯科治療費を極力軽減するためにも、予防歯科に積極的に取り組むことをおすすめします。