虫歯は他の歯にうつるの?

はじめに

虫歯ができると、別の歯にうつるという話を聞いたことはありますか。虫歯は1度できると歯科医院で治療を受けない限り治ることはありません。自力で治せない虫歯が、ほかの歯にまでうつってしまうのは、健康や日常生活において厄介です。

今回は、虫歯がうつるという話が本当かどうかについて、解説します。虫歯にならないために行うべき対策も含め解説しますので、是非とも最後までご覧ください。

虫歯の主な原因4選

虫歯がほかの歯にうつるという表現は適切ではない

「虫歯がうつる」という話を耳にされたことはありませんか。しかし、「1本の歯が虫歯になったら、ほかの歯にまでうつる」という表現は適切ではありません。

虫歯は歯と歯の間でうつっていくのではなく、1本の虫歯に潜んでいた原因菌が、ほかの歯に影響を及ぼすことで起こります。原因菌が汚れた歯に付着することで虫歯を引き起こしている、と考えたほうが適切です。

虫歯の増加が見られた場合は、原因は歯にあるのではなく、口腔内(お口の中)に潜んでいる細菌にあると考えられます。虫歯の原因菌は、おもにストレプトコッカス・ミュータンスです。別名として、ミュータンス菌や虫歯菌とも呼ばれています。

ミュータンス菌は口腔内に存在し、唾液の中を浮遊しながら歯に感染する細菌です。口腔内にミュータンス菌が潜んでいる以上、歯が次々と虫歯になる可能性は十分に考えられます。

虫歯の本数は、口腔内環境の状態により左右され、ほかの歯にうつってできるわけではありません。口腔内の状態が悪いままであれば、時間の経過とともに虫歯の増加が懸念されます。歯の健康状態を保つためにも、日頃から正しい口腔内をケアし、虫歯予防につなげましょう。

虫歯が他人からうつるのは本当?できるだけ避けるべき状況とは

他の人の虫歯が、自分の歯にうつる可能性を考えたことはありますか。
どのようなときに他の人の虫歯がうつるのかについて、説明します。

口移しでうつることがある

幼い子どもを持つ親は、子どもに食べ物を口移しで与えるケースが少なくありません。しかし、親が子どもに食べ物を口移しで与えることにより、虫歯がうつる場合があるとされています。

過去に虫歯になったことがある親は、子どもへの虫歯の感染に気を配りましょう。虫歯の経験がある人の口腔内には、強い感染力のあるミュータンス菌が多く潜んでいることが考えられます。

親が虫歯を経験している場合、口移しで食べ物を与える行為は虫歯を引き起こしやすくなるため危険です。口移しの際に子どもの口の中に親の口腔内にある細菌が入り、虫歯がうつることが予測されます。

口移しは、相手の虫歯リスクを高めてしまうものと認識してください。口移しで飲食物を与える行為は、なるべく控えるようにしましょう。

子供の虫歯の注意点

食器の使い回しでうつることがある

虫歯の感染は、口移しに留まらず、箸やスプーンといった食器の使い回しでも生じることがあります。他の人が使った食器を使用して食事をとる行為は、虫歯リスクを高めるため注意が必要です。

複数人で同じ食器を使い回すと、食器を介して他人の唾液が口腔内に入る可能性が生じます。他の人の唾液に潜んでいるミュータンス菌が自分の歯に感染し、虫歯を発生させることが考えられるのです。

とくに、家族で食器を使い回した経験のある方は多いのではないでしょうか。虫歯の発生を防ぐためには、食器をなるべく他の人と別にして、使用後はきれいに洗うことが大切です。

まわし飲みなどでうつることがある

ペットボトルやコップで飲み物を飲む際、まわし飲みにはとくに気をつけましょう。ミュータンス菌は、唾液にたくさん含まれているため、食器以外でも唾液に付着するものはすべて注意しなくてはいけません。

まわし飲みを行うと、飲み口や飲み物に含まれた他の人の唾液を介して、ミュータンス菌が口腔内に入る可能性が挙げられます。

まわし飲みは、家族に限らず、友人同士や職場の同僚などとの外食時にも頻繁に見られる行為です。可能な限りまわし飲みを行わず、コップに分けて飲むか、別々で飲むようにしましょう。

口腔内で虫歯が発生するまでのメカニズム

ミュータンス菌が虫歯を引き起こすメカニズムは複雑です。虫歯は発生すると厄介な病気ですが、複雑な条件が合わさって起こるため、毎日の正しいケアを習慣づけることで予防できます。

虫歯は、口腔内に原因菌が潜むことのほかに、日常生活にも大きく左右されるのです。どのようにして虫歯が発症するのかを以下にまとめました。

糖が栄養分となり菌が増殖する

口腔内に潜むミュータンス菌は、食べ物に含まれているショ糖や麦芽糖などの糖分を栄養にして増殖します。虫歯リスクが気になる方は、なるべく糖分のたくさん含まれている食べ物を控えるようにしましょう。

同時に、ミュータンス菌は歯の表面(エナメル質)に、粘着力の強いグルカンという物質を放出します。グルカンは、独自の粘着力によって、菌がエナメル質に引っついてしまうため厄介な存在です。

グルカンにより、歯に付着する菌が少しずつ増殖していき、ミュータンス菌の集合体ができあがります。集合体によって、唾液が持つ自浄作用を受けにくくなるため、正しく歯が磨けていない場合は虫歯リスクが大きくなるのです。

歯の表面にプラークが形成される

細菌の集合体は、徐々に大きくなっていき、やがて数を増やしていきます。菌の増殖で大きくなった集合体が、エナメル質に形成された白い汚れ(プラーク)です。

プラークは、細菌にとって住みやすい環境で、歯と歯の間や歯と歯ぐきの間にある溝の部分など、主に歯ブラシが届きにくい部位で増殖していきます。
プラークはブラッシングにより除去可能ですが、磨き残しなどによりプラークを落とし切れていない場合、少しずつ量を増していくため、口腔内環境の悪化を招くのです。

歯の健康を守るためにも頃から正しいブラッシングやケアを行い、とくに気をつけましょう。

プラークの中で菌が酸を作り出す

ミュータンス菌は、歯の表面に引っついたのち、乳酸と呼ばれる酸を放出します。酸によって、プラークの中は酸性の状態になり、接触している歯の表面(エナメル質)が溶けていく「脱灰」が起こるのです。

エナメル質は、リン酸カルシウムを主成分とするハイドロキシアパタイトという物質で構成されています。カルシウムが含まれているエナメル質は、酸に弱く、ミュータンス菌が放出する乳酸にも影響を受けやすい物質のため、歯が少しずつ溶けてしまい、虫歯になるリスクを高めます。

歯の表面が溶けて虫歯が発生する

乳酸によりエナメル質が溶け続けると、最終的には歯に穴が開いてしまいます。歯は、一度溶け始めると途中で止まることはありません。歯科医院で治療を受けない限り溶け続けます。エナメル質が溶けて、穴が開いた状態が虫歯です。

虫歯がエナメル質にある間は、痛みを感じにくいため自分ではあまり気づきません。しかし、虫歯は時間をかけてゆっくりと進行し続け、やがて象牙質まで溶かしていきます。象牙質まで達すると、冷たい物を摂取した際に痛みを伴うようになるのです。

歯に痛みが生じると、ひどい場合は夜も眠れないほどの悪影響を及ぼします。身体的な面だけでなく、精神面にも影響するので、早めの対処が大切です。

虫歯になりやすい歯って?

虫歯にならないために行うべき対策は?

虫歯は、1本できると他の歯にもできてしまう可能性は十分にあります。本数が増えることを防止する前に、発生を予防することが大切です。

以下に、虫歯にならないために行うべき対策についてまとめました。自分でできる予防策はたくさんあるので、是非とも参考にしてみてください。

糖分の摂りすぎに気をつける

ミュータンス菌の栄養素となる糖分は、甘いものにたくさん含まれています。また、炭水化物も唾液で分解されることによって糖に変わるため、注意が必要です。口腔内に糖が多く含まれているほど、虫歯菌は活発に歯へダメージを与えていきます。

間食などの際に、ジュースやお菓子などを頻繁に摂取している方は、とくに気をつけましょう。糖分を多く含む飲食物の摂りすぎに気をつければ、虫歯になるリスクを減らせます。虫歯を予防するためにも、普段の食生活を見直してみてください。

食後の歯磨き習慣を身につける

食後は、なるべく早めに歯を磨くことが大切です。食後の口腔内は、食べ物の残りなどが多量に含まれており、ミュータンス菌が潜むのにちょうど良い空間になります。
とくに、糖分を多く含む飲食物を摂った後の口腔内は、菌にとってより良い環境になる分、虫歯リスクをより高めることにつながります。

ただ、注意点として柑橘類や梅干しなど、酸の強いものを食べた後は、少し時間を置いてから歯を磨きましょう。酸の強いものを摂取したあとは、エナメル質の表面を新しく形成する再石灰化が行われています。歯磨きを行うことで、再石灰化を妨害してしまう恐れがあるため、最低30分は時間を置いて歯を磨くことが大切です。

糖分を多く含む飲食物は食後すぐに歯を磨き、酸の強い飲食物は少し置いてから歯を磨くことで、口腔内環境を少しでもよい状態に維持することができます。これらを意識して、歯を磨く習慣を身につけましょう。

定期的に歯科医院で検診を受ける

虫歯を防ぐために十分な効果が得られる方法は、歯科医院受診です。歯科医師や歯科衛生士による口腔内の現状検査と、歯をクリーニングしてもらうことができます。

そして口腔内の問題発見と状態改善が可能になります。
また、歯磨き指導も行われるため、普段のブラッシング方法に自信がない方も日頃のケアを見直すことにもつながります。口腔状態に不安がなくても歯科医院を受診しましょう。

虫歯になりやす人の特徴と原因

歯の健康を守るために日々の習慣をあらためよう

虫歯の原因は、口腔内に潜むミュータンス菌です。1本でも虫歯が見つかると、ほかの歯の健康まで損なわれることが考えられます。

また、せっかくお口を健康に保っていたとしても、他の人の唾液が口腔内に入ってしまうと虫歯リスクが高まるため、注意が必要です。虫歯にならないためには、お口の健康状態を意識した習慣を身につけましょう。

自分の口腔ケアの仕方が正しいか不安な方は、歯科医院へ相談することで、改善に大きく近づきます。虫歯は放っておいても決して治ることはなく、悪化する一方です。早めに来院することを心がけましょう。